ベートーベン『月光』

昨日は急に思い立って岡山の奥津温泉へ。あまり調べずに適当に予約したところは静かな川縁の古い旅館だった。温泉に入り部屋でお食事していたら、どこからかベートーベンのピアノソナタ『月光』が聞こえてくる。泊まりにきている子供がピアノがあって弾いているのか、よくぞ苦情がでないもんだな〜と思いきや、なんとそこの旅館の社長が弾いていた! お食事の時間を楽しんでもらおうと7時から9時くらいまで、ずーっと弾いているらしい。ただし2時間ベートーベン『月光』の1楽章のみ。 素晴らしい腕前とはお世辞にも言えないが、妙に惹かれてグランドピアノのそばで聞き入って、終わったときにお話したら、71才からピアノを初めて現在75才。
「70の手習いです。」
ここは棟方志功が先代の社長と非常に交流があって長年滞在してた旅館らしく、彼の作品がごろごろしてる。与謝野晶子もよく来ていたらしく「棟方志功の部屋」や「詩の部屋」などと泊まり客の部屋にはしようともせず、贅沢にギャラリーになっている。今の社長は津山までピアノを習いに行き(片道30キロ!)、毎晩『月光』の1楽章を弾いている。後半は2楽章を倍ほどの「遅さ」で練習していたが、それをうるさいと思うお客さんは、この旅館に泊まるのは無理だろう。
「私の死ぬまでの仕事は、眠っている棟方さんの作品をみなさんに見てもらえるよう展示することと、『月光』を3楽章まで弾く事です。」