呼び捨て

マスターが倒れた時にひとりで店にいた20代男性がその後はじめて店に来られた。彼が意識を失ったマスターに必死で話しかけてくれたから気がついたのだ。水も飲ませてもらっていた。きょう話を聞くと彼は東京人。あの日は神戸に物件探しに来ていて「神戸でジャズを聞くなら木馬」と本で読んで初めて木馬に来たら、真横にマスターが倒れて来た。それを聞き「なんと格好悪い・・・」と頭を下げるマスター。
彼は東京で電気系の会社勤めを5年していたがやっぱり音楽をしようと決意し神戸に来た。「なんで神戸???」と聞くと、神戸のジャズ系音楽院には奨学生制度があり、新聞配達員をしながら勉強でき、お金ももらえるシステムらしい。
「東京にはもちろんいくつもいい学校はあるんですが、僕の性格だと自宅から通うとぬくぬくとしてしまいそうだから」とわざわざ遠隔地に。朝2時半起き3時から配達、朝刊は休みがないので2年間一日も休めない。夕方は週に2日休みがあり学校と新聞屋と提携してるので授業もそれに合わせれるのだそうだ。「遅いスタートですがやるだけやって違う職業に就くかもしれないし、とにかくやりたいんです」と彼。年齢の割りに落ち着いた雰囲気を持つ好青年。
SHARPで工学系の仕事をしていた同じ脱サラ組のマスターは、めずらしく自分が会社を辞める前後の話や心情を彼に話し込んでいた。もうすっかり内心面倒見ようと思ってるのだろう、名前を聞いたばかりの恩人をすでに呼び捨て。
新聞屋との兼ね合いで下宿が決まる。西宮に決まったらしくちょっと遠い。
帰り際、「また来いよ」とマスター。