それが一切

作品発表の演奏会リハーサル後、ジャコメッティ展は明日までだと聞いたので、あわてて原チャリで兵庫県立美術館へ駆け込む。家から真南ですぐなのに、この美術館ができてからはじめて行った。コンクリートがひんやり冷たい。
日記や新聞の切れ端に描かれたデッサン、手紙は生々しい。そんなに昔の人じゃないもんなぁ。ジャコメッティの奥さんが京都在住の哲学者・矢内原宛に送ったジャコメッティ訃報の電報にドキッとした。電話は残らないけど電報ってモノで残るんだ。タイプライターの電報の一行は、声が聞こえない分よけいに重く感じた。
きのうからマスターが厨房で何やら熱心に制作している。
「何つくってるんですかー?」と聞かれても
「たいしたことじゃない、試みること、それが一切だ。うーん、いい言葉だ」
とかぶつぶつ言って、黙々とバーナーで看板の屋根?かなんかを作っている。
きょう行って謎が解けた。ジャコメッティ展の出口に、
『そんなものみな大したことではない。絵画も、彫刻も、デッサンも、文章、はたまた文学も、それ以上のものではない。試みること、それが一切だ。おお、何たる不思議のわざか。』と書かれていた。
マスターはきのうこの展覧会に行ってたし、どうやらこの言葉に感化されてまたもや制作しはじめた模様。